

オーナー國枝 大祐
生まれた時から作業場は遊び場。ハサミの音、ミシンのリズム、作業場から流れるラジオ――そんな環境で、自然とビスポークに親しみました。七五三では父が仕立てた紺ブレを、学生時代は父が仕立てた学生服ズボンやシャツを着て照れくささも覚えつつ、服の力を身近に感じてきました。中学からファッションに興味を持ち、最初に袖を通したスーツはモッズを意識してお客さまからお下がりの紺のベルベットのスーツ。古着、バイカー、ストリート……幅広いスタイルを通して、「似合う」と 「らしさ」を学びました。
将来は獣医を志した時期もありましたが、父の「家を継ぐか」の一言で道が開けます。2000年代初頭、仕立て屋は逆風の時代。父から「どんなに良い服でも、知ってもらえなければ意味がない。技術は後で教える」と背中を押され、カリフォルニアのカレッジでファッション流通経済とマーケティングを学び、サティフィケイトを得て帰国しました。帰路に立ち寄った英国サヴィルロウで受けた衝撃は鮮烈でした。日本のコンクール受賞作のような “模範解答” とは異なる色気のあるシルエット。帰国後は金洋服店・服部先生の指導のもと、先生が創り出す自由で大胆な裁断と縫製に出会い「スーツの仕立てはもっと自由でいい」と確信します。
いまの私を形づくるのは、父から受け継いだ技術と仕事への向き合い方、サヴィルロウで知ったスーツの色気、そして服部先生の技法。私はその三つを土台に、お客さまの毎日に自信と品格をもたらす一着を仕立てています。
スタッフ杉岡 大河
岡山県生まれ。静岡大学情報学部への進学をきっかけに、浜松での暮らしが始まりました。服に興味を持ったのは大学1年の頃です。それまでは無頓着で、手頃な既製スーツを“無難に”着ていました。転機は映画『キングスマン』。アクション目当てで観たはずが、コリン・ファースのスーツに心を射抜かれ、「良いスーツとは何か?」が頭から離れなくなりました。マナーやネクタイの結び方、柄の意味、歴史――本やネットで調べ続けるうちに、ひょんな縁でテーラー新屋に出会い、スーツの内側とフルオーダーの世界に触れます。紙にも画面にも載っていない“リアル”の深さに惹かれつつ、答えはまだ見つかりませんでした。
将来を模索していた折、コロナ禍で授業が全面オンラインに。画面の前だけの毎日に違和感を覚え、思い切ってスーツの道へ。基礎を学ぶため岡山の服飾専門学校で2年間学び、浜松へ戻って修行を続けています。作業場では、師匠・國枝と、針一本の精度にこだわる職人たちに囲まれ、「設計としての仕立て」と「縫いとしての仕立て」を両側から学べる日々です。
ある日、師匠に「良いスーツとは何ですか」と問いました。返ってきたのは「すべての人に認めてもらえるような良いスーツは、実は自分もよくわからない。」という言葉。肩の力が抜けるようで腑に落ちました。伝統と技術を信じてくださるお客さまがいる――その信頼に応え続けること。いつか自分なりの答えを、言葉ではなく着心地と佇まいで示すこと。それを目標に、いまも手を動かし続けています。













