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こだわりコラムバリアフリー仕立て

車椅子とバイクを繋いだ一着のツイード――「座る」を基準にデザインを引き直す。

一昨年(2024年8月)、静岡新聞の連載「いつでもバイクで」にて私たちテーラー新屋の「ウールのライダースジャケット」を取り上げていただきました。

この一着、実は出発点はバイクではありません。 もともとは「車椅子で生活されるお客さま」のために“座り姿が最も美しく見えること”を最優先に設計したものでした。


「機能」のその先へ。仕立て屋が足したかったもの

世の中にある多くのバリアフリー服は着脱のしやすさやゆとりを最優先に作られています。それは優しさでありひとつの正解だと思います。けれど仕立て屋として私はそこにもう一つ足したかったものが 「機能的なのは当たり前。その上で最高に格好よく自分を好きになれる服を作りたい」

これがテーラー新屋が考えるバリアフリーの原点です。


遠州ツイードという「必然」

素材に選んだのは地元・浜松の「遠州ツイード」。 ウールをベースに麻を20%混紡したこの生地は、ツイード特有の奥行きと麻混ならではの乾いた質感を併せ持っています。この質感が革のライダース特有の無骨さを程よく中和し街に溶け込む「品」を生んでくれると感じたからです。


ビスポークが叶える「座り姿」の設計

車椅子の方は姿勢が前傾になりやすく既製品では「首の付け根が抜ける」「背中が浮く」「腰が見える」といった悩みが起きやすいものです。だからこそ私たちは「立ち姿」だけをゴールにしませんでした。 座った身体の輪郭に合わせ、首回りから背中、後丈、腰まわりの収まりを考えました。目指したのは、「座っている時こそ、最高に美しい一着」でした。

背中が前傾しても首や裾が離れず身体にフィットしているのが確認できると思います。また後ろ裾はたっぷりとお尻周りを隠し、前裾も折れたり短すぎたりしない丈にしました。ポケットは斜めのメールポケットにすることでアクセントにもなり手を入れやすく物を落としにくい仕様としました。



「立つ」と「座る」の矛盾を解く、脇ファスナーの真意

ここで一つ、どうしてもお伝えしたいことがあります。 このジャケットのアイコンとも言える「脇のファスナー」についてです。「なんだ、ただファスナーを付けてゆとりを作っただけか」 もしそう思われたならそれは私の説明不足です。このファスナーは単なる便利ギミックではなく「物理的な矛盾」を解決するための地味で切実な答えでした。


職人の視点:なぜ、あえてファスナーなのか

マネキンの着用写真のように、本来長時間車椅子で過ごされる方のための「座り専用」設計であればファスナーは必要ありませんでした。身体に合わせた座り姿で完結させられるからです。

しかし、車椅子を補助として使い「立ったり座ったりを繰り返す方」にとっては話が変わってきます。

⚫︎ 座り姿を基準に作ると: 立ち上がった瞬間、背中に“余り”が出てしまう。
⚫︎ 立ち姿を基準にタイトに作ると: 座った瞬間、脇やお腹が強烈に圧迫される。

この「立つのも座るのも美しく」という矛盾を解くために導き出したのが脇ファスナーでした。 基準をシャープな「立ち姿」に置き、座る時はファスナーで可動域をお好みで自由に広げ「座り姿」の快適さと美しさを両立させる。

「ただ付けただけ」ではなく、用途が“座り専用”から“立つ/座るの両立”に変わった時のビスポークとしての現実的な解なのでした。


バイクの街・浜松で見つけた「別の価値」

このデザインに別の角度から光を当ててくれたのが、バイク神社としても有名な大歳神社の権禰宜、石津さまでした。 彼はバイク乗りの視点からこの服の価値をこう言語化してくれました。

「革のライダースは身を守る正装。けれど遠征先のホテルや神社への参拝ではその強さが場を選ぶこともある。その点ウールなら上品で世界観を壊さない。『走る時間』と『街で過ごす時間』を切り離さない一着になる」。ウールで仕立てるライダース、そして車椅子のために設計した脇のファスナーによる「座り姿の設計」がバイクに跨る姿勢にも完璧に噛み合いました。 それは偶然ではなく必然のような繋がりでした。

大歳神社の石津さま、神社ソムリエの佐々木優太さまと3人で。

バイクに特化させるため裏地はキルティングにしました。


ライダースは「袖の付いたベスト」である

私にとってライダースのようなタイトな服はジャケットというより「袖と襟の付いたベスト」に近い存在です。 ベストはジャケット以上に身体への密着が求められます。だからこそ設計は雑にできません。数値を当てはめるのではなく身体の輪郭に対して服の輪郭を作る「短寸式」の発想。 これがあるからこそ立ち姿だけでなく座り姿にも強い服が生まれます。


浜松の文化を、一着に乗せて

石津さまからはじまったこのウールのライダースジャケットは、今では神社ソムリエの佐々木優太さまや、バイク女子で声優の「にゃんばちゃん」こと難波祐香さまにも賛同していただきご愛用してくださっています。

地元の遠州ツイードを使い地元で仕立てる。 それが巡り巡って浜松の繊維文化やバイク文化の発信に繋がり地域活性化の一助となればと思います。

⚫︎ 「身体に合う服が見つからない」
⚫︎ 「機能はいいけれど、もっと格好いい服を着たい」

もしそう感じている方がいたらぜひ一度ご相談ください。 機能性とファッション性は対立しません。 あなたの身体とあなたの「座り方」に合わせて最高の一着を設計いたします。

バリアフリーラインはこちらから

【関連リンク】

⚫︎ 佐々木優太さま 遠州ツイードのライダースジャケット(制作例)
⚫︎ 難波優香さま 遠州ツイードのライダースジャケット(制作例)
⚫︎佐々木優太さま 紹介記事( Webオートバイ)