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2015年12月の記事一覧

ツィードの歴史

静岡県のテーラー新屋のダイスケです

 

めっきりと寒くなりましたね

やはり寒くなるとファッションは発達するもので、街中を見回しても暖かい気候の時と比べお洒落だなと思う人を多く見かけます

 

 

前々回に「ツィードの種類」について書いてみたので、今回はそもそもツィードとは??というところも踏まえながら書いてみたいと思います

 

 

果実や野菜に旬があるように服地にもそう呼ばれるのにふさわしいものがあります

たとえば、春にはギャバジンやファインウールなどがあり、夏にはリネンやシアサッカーなどがあります

秋には同じくコーデュロイやフランネルがあり、冬にはカシミアやローデンクロスなどがあります

 

これらのような「季節の素材」の中にツィードがあり、毎年秋になると決まったように顔を出します

少なくとも1930年代から以後今日に至るまでツィードが姿を見せなかった秋はないのではないでしょうか?

 

ツィードはそれほど秋という季節に似つかわしい「季節の素材」としてお馴染みになっています

 

なぜそこまでツィードという素材は人気があるのか?

私個人的には、おそらくツィードという素材が持っている一種の「デニム感覚」とでもいうべき特性が、この素材を魅力あるものにしている最大の要因ではないかと思います

丈夫で長持ちする耐久性、バラエティー豊富な多様性、それに着こなし自在な多用途性などはデニムにもツィードにも共通して当てはまります

また、ツィードもデニムも着込めば着込むほど、洗えば洗うほど味わいが深くなり、また古くなればなったで、それ相応の趣が認められます

 

 

前置きが長くなりましたが

さて、ツィードとはスコットランドおよびアイルランドをその主要産地とする、厚手の紡毛織物全般を指しています

これには本場のいわゆる純正ホームスパンのみならず、機械織によるツィード仕上げの紡毛地や合繊混紡の紡毛地まで含まれています

しかし元来はスコットランドの農家でスコッチ種羊毛を原料染めにして、それを手紡きにした太い糸を用いて手織り機で織り上げた2*2の綾織りのシングル幅ホームスパンのみを指しこれが狭義のツィード、つまり「スコッチツィード」でした

 

スコッチツィード

純正ホームスパン(スコッチツィード)

 

 

そもそもツィードの登場は18世紀の後半からであるらしく、その語源は綾織物を意味するツイル(Twill)の方言(スコットランド語)のツィール(Tweel)の誤読に由来すると言われています

 

英国のテーラー専門誌「テーラー&カッター」によれば、ことの起こりは1825年、産地「ガラシールズ」からの送り状に記されていた説明書きの読み違いに端を発したそうです

ロンドンのある羅紗屋さんがその産地を流れる川の名前(Tweed River)とそれ(Tweel)とを混同したようです

誤訳がときに名訳を生むように、ツイードは「ツィール」の通称=正式名称として公認されるようになり、そのまま今日に至っています

 

 

ツィードは最初、スコットランドの労働者の作業服ないし普段着用の素材として登場し、起源は18世紀の末というのがほぼ定説となっています

 

しかし、一説にはそれに相当する布地が徐々にではあるが18世紀の半ばにはすでに作られていたとも伝えられています

無論、当時はツィードの呼称はまだないわけで、平織の物は「ラシット」綾織りの物は「ツィール」と呼ばれており、いずれもツィードと同様、伸縮性に富みざっくりとした手触りの自家製紡毛織物だったそうです

 

 

この素朴かつ実用的なホームスパンが紳士服に採用されるようになったのは、後の1930年代に至ってのことです

 

最初はカントリージェントルマン達の銃猟用で、そのなかでもグラウス・シューティング(ライチョウ撃ち)用のジャケットに主として使われていたようです

ついで、1850年代から60年代にかけては、アングリング(魚釣り)用や略式のクリケット用のカントリースーツ、あるいは「ツィード・サイド」と称するラウンジ・ジャケット(スーツの前身)などにも徐々に用いられるようになりました

 

そのなかでも、ノーフォークジャケットの原型である、ノーフォークブラウスが紹介された1866年以降、ツィードは飛躍的に使用されていきます

たとえば、ノーフォークジャケット、ニッカボッカーズ、サイクリングジャケットやドライビングジャケット…、カントリー用のラウンジスーツへも採用されていきました

 

 

こうした情勢に拍車をかけるようにして、まもなくお馴染みハリスツィード(1875年)、チェヴィオットツィード(1880年)、ドニゴールツィード(1890年)などのバリエーションが次々にお目見えし、今日の私たちがイメージするところの「ツィード」が勢ぞろいするようになりました

 

 

そして、ツィードがカントリーな服地の代表格として、すなわち“シック”な布地の最高峰まで昇格するに至ったのは、おそらくココ・シャネルによって発表された、俗にいう「シャネル・ツィード(1930年)」の出現が大きかったのだと思います

シャネルスーツについては以前のブログをどうぞ

 

 

以来、ツィード仕立ての服が“シック”の同義語または代名詞とみなされるようになりました

 

 

ツィードには様々な色調、味わいが認められ一種の言い難い独特の趣が見いだされます

アイルランド北部の美しい田園風景をそのまま織り上げた色彩豊かなドニゴールツィード、スコットランド北西の島民の質素な生活習慣を伝えるケンプ入りのハリスツィード、杢糸づかいの霜降りや杉綾が一段と趣を添えている南部スコットランド産のチェヴィオットツィード…ツィードを着るということは、とりもなおさずこうしたそれぞれの布地の持ち味、趣を着るということにほかなりません

↑最後は、グランドジャンプ連載中のスーツの漫画「王様の仕立て屋」っぽく締めてみました

 

 

浜松市のテーラー新屋は「季節の素材」も大切にして服を仕立てています

 

 

 


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