静岡県のテーラー新屋のダイスケです
早いもので1月もあと一週間となりました
皆さまはどんな年末年始を過ごしましたか?私は商売繁盛の神様がいらっしゃる豊川稲荷へお参りにいきました
以前、仕立屋業界にも専門誌があると書きましたが、その専門誌によると2017年のトレンドとしてカジュアルではタータンチェックが台頭するようです
事実、英国高級服地マーチャントであるホーランド&シェリー(Holland&Sherry)の今年の生地見本には、今までにないようなタータンの色味や柄が満載です
また、ホーランド&シェリー同様英国の名門マーチャンドであるハリソンズ(Harrisons of Edinburgh)のタータンチェック柄が紋章院(紋章や系譜を管理・統括する場所)に登録されたという話も聞いています
そこで、今回はタータンチェック(タータン・プレード)についてまとめて書いてみたいと思います
「伝統柄」にはたいてい故事来歴があり、その最たる典型の一つにスコットランドの民族衣装でお馴染みのタータン・プレードという派手な格子柄があります
タータン・プレードのタータンとは、最初は格子柄の名称ではなく、その格子柄を特徴とした一種の毛織物を指す語として登場しました
このタータン織物の起源は13世紀頃というのが定説となっていますが、一説には古代ローマ時代初期にそれを想わせる色遣いの格子柄織物が見られたとも伝えられています(もっとも、衣装としてではなく肩掛け用としてですが…)
語源は中世フランス語で「麻または綿と毛を混ぜた織物」を意味するティユテーヌ(Tiretaine)ないしはスペイン語で「薄絹」を意味するティリターナー(Tiritana)からの派生語とされています
それに加え、「交差」という意味のゲール古語から来たとの説もあり判然としないのですが…
明らかなのはそれがスコットランド高地の氏族の衣装に端を発したものであるということと、「タータン」という言葉が1550年にはすでに使われていたということです
実は、中世から18世紀頃に至るまでのタータン織物は今日のものほど洗練されておらず、むしろツィードのような素朴な味わいをもった織物だったそうです
というのもホームスパン同様各家庭で織られたものなので、『世界衣装百科事典』によると、縦糸と横糸との比率は必ずしも一定したものでなく、格子柄の現れ方も不規則ないし不均衡な形のものが少なくなかったと書かれています
また、草木染めが中心であったため、その色合いも現代のそれと比べ全般にソフトで微妙な調子のものが多かったみたいです
そもそものタータン織物は、スコットランド高地の男たちの生活体験から生じたものであるらしく、その色彩や図柄は氏族ごとに異なっていました
さらに、各氏族のなかでも、それぞれの身分に応じて使える色彩の数は厳しく定められており、それは『民族衣装』の著作オーギュスト・ラシネによれば…
農民や兵士は1色、将校は2色、氏族のトップは3色、貴族は身分によって4色ないし5色、優れた哲人は6色、そして王族は7色
というようにわけられていました
このようなスコットランドの伝統柄であるタータンがイギリス本土(イングランド)へ導入されるようになったのは、18世紀に入り1745年のスコットランド蜂起以後です
それらはまず英国陸軍の連隊服に採用され、やがて19世紀になるとジョージ4世をはじめとする王室や貴族階級の人々によってポピュラー化されるようになりました
なかでも、1822年の夏にジョージ4世がエジンバラを訪問するにあたり、鮮やかなスカーレットを地色としたタータンキルトで身を整えたのは有名な出来事です(じつはこの思いつきは彼自身におるものではなく、スコットランドのサー・ウォルター・スコットの提案だったようですが…)
画像-ウィキペディアより
ジョージ4世がタータンを着用して以後は、それまでタータンを着なかった領主階級までもが競って身につけるようになり、19世紀の半ばにはイギリス全土で着用され、時の国王夫妻であったヴィクトリア女王とアルバート大公もタータンを愛用したことでさらにこのブームに拍車をかけました
以後、タータン織物はイギリス国内のみならず、ヨーロッパそしてアメリカへと輸出されるようになり、それに準じてその柄自身にもバリエーションが見られるようになりました
プリンス・アルバート自らがデザインしたと言われている8種類の「ロイヤル・スチュアート」をはじめ、「キャンベル」、「マクドナルド」、「カメロン」、「ゴードン」、「スタフォーソン」、「マックグレガール」など現在スコットランド紋章院(王立ライアン卿登録)が把握している氏族のタータンのみに限っても、ゆうに140種類以上を数えます(ちなみに、紋章院がタータンの登録を受け付けしだしたのは、第二次大戦が終わってからのことです)
しかし、そうは言っても、すべてが登録されているわけでなく、例えば世界的に有名な青地に緑と黒のタータンである「ブラックウォッチ」は、イングランド政府系の軍隊の柄だった為、スコットランド人に対する民族的配慮から今も未登録のようです
タータンは他に用途別にわけられているので、最後に載せておきます
ドレス・タータン
正装用 … 地色を白にしたものが多く、例えば「ドレス・スチュアート」などが典型です
モーニング・タータン
午前用 … 昼間の礼装に用いるタータンです
チーフ・タータン
族長用 … 例えば「キャンベル・オブ・カウダー」などが典型です
ハンティング・タータン
狩猟用 … 例えば「マクファーソン・ハンティング」などが典型です
ロイヤル・タータン
王室専用 … 例えばヴィクトリア女王が考案された「バルモラル」などがあります
レジメンタル・タータン
連隊用 … 例えば「ブラックウォッチ」があります
クラージー・タータン
聖職者用のタータン
ディストリクト・タータン
郷土用 … 例えば「ジャコバイド」や「カレドニアン」などがあります
次回は、ディストリクト・タータン(郷土用タータン)についてもう少し詳しく書けたらよいな…と思っています
浜松市のテーラー新屋は、今年も腕を磨いて皆さまのご来店をお待ちしています