TOP > コラム > 歴史

blog

【歴史】の記事一覧

日本陸軍三式軍服の仕立て

静岡県のテーラー新屋のダイスケです

 

若葉の緑も色濃くなりはじめ、日中は汗ばむほどの陽気な日が多くなってきました

私の住んでいる浜松市では、5月のGWに行われる「はままつ祭り」の準備が着々と進んでいます

 

さて、先代より仕立屋をやっているとスーツ以外のご注文をいただくことがあります

礼装はもちろんのこと、例えば学生服やトンビ、白衣などの注文をいただいたこともあります

 

 

先日お客様より「軍服」のご注文を頂き、それが仕立てあがりました

今後、自分よりも若い仕立て屋さんが、私と同様「軍服」のご注文を頂いた際の助けになれば良いなと思い、今回は軍服を仕立てる際のポイントを書いてみたいと思います

 

 

まず、今回仕立てたのは「三式陸軍(近衛兵)将校」というご注文でした

残念ながら現物を拝見することは出来ませんでしたが、私自身、ネットはもちろんのこと図書館や映画、護国神社、先輩の仕立屋さんの話などなるべくたくさんの軍服写真や情報を探して仕立てました

 

シルエットはこちらを参考にしました

テーラー新屋 軍服ベース

 

 

仕立てあがったものがこちらです

 テーラー新屋 軍服1

 

テーラー新屋 軍袴1

 

 

 

生地は厚手のサージを使用し、上着は学生服(細腹無し)、ズボンは乗馬ズボンをベースに裁断します

付属品はネットで探して購入します

 

軍服の特徴ですが、アームホールを狭く、袖は袖山を低く袖幅を広くした所謂「めがね袖」にすることで腕が上へ動かしやすいようにします(社交ダンス用の袖に近い形です)

軍袴は基本乗馬ズボンの製図ですが、狩猟ズボンのように実用性重視にするために脇の膨らみを少なくし、乗馬ズボンに比べ後ろを浅くし起こした方が良いのではないかと思います

 

 

続いて細かなディテールについてです

資料を見ていると袖はポケット位置を基準に多少の上下で切り替えをしているようです(これは私個人の推測なのですが、払い下げをした際に袖丈だけ長くするのに都合が良いのかな?なんて思います)

また、三式袖線は後ろに向かってハの字になるように取り付けます

テーラー新屋 軍服2

 

 

ベントは軍刀を吊るす為に左側のみに入ります

位置はスーツと違い、細腹にあたる部分の中間でベントの深さはやはりポケット位置を基準にして良いと思います(仮縫いで微調整してください)

裏地部分の処理は写真のようにしてます(本来裏地の色は国防色と呼ばれる色を使うそうです)

テーラー新屋 軍服3

 

 

襟部分は共地ではなく裏地を使い、襟腰は学生服よりも高くソフトカラーを付ける為のカラーボッチ(この言葉を知らず問屋で探すのに困りました)を縫い付けます

テーラー新屋 軍服4

 

 

 

続いて、軍袴のディテールについてです

右側にウォッチポケットがつき、フロントフライはボタンを使います

腰裏や天狗天前のディテールは写真を参考にしてください

テーラー新屋 軍袴2

 

 

ウエスマンは10センチ前後、ベルトループは剣帯ベルトが7.5センチであることを加味して作ればよいと思います

裾には5つボタンがつきます(採寸時に膝、膝下、ふくらはぎの寸法をお忘れなく)

また、裾のスレーキ部分には薄い芯をいれた方が良いと思います

テーラー新屋 軍袴3

後ろにはバックベルトがつきますが、今回はナシのご注文でした

写真 2016-04-18 16 04 43

最後に略帽を共地で仕立てます

今回はオーダーメイドの帽子を作っている「シャポード・マユ」さんにお願いしました

とても親切で、丁寧に作ってくれました

写真 2016-04-21 13 42 42

いかがでしたか?今後軍服を仕立てる際の参考になったでしょうか?

九八式と三式でまた少し違うようなのでご了承ください(…とはいっても、九八式を流用した三式などもあるみたいです)

実物を見ることが出来なかったので細かなディテールは違う可能性はありますが、おおまかにはこんな感じで良いのではないか?と思います

 

 

最後に

私自身、軍服ははじめての注文で戸惑うことが多かったですが、仕立てる機会をくれたお客様に感謝したいと思います

折角の仕立屋なんですし、お客様の社会的立場に応じたものは勿論のこと、今後もお客様の欲しいデザインのものまで出来る限り要望に沿って仕立てていきたいと思います

 

 

 

浜松市のテーラー新屋は軍服も仕立てますが、なるべく争いがない方が好きですし、平和であることを強く望んでいます


タータンチェックの種類と歴史

静岡県のテーラー新屋のダイスケです

 

早いもので1月もあと一週間となりました

皆さまはどんな年末年始を過ごしましたか?私は商売繁盛の神様がいらっしゃる豊川稲荷へお参りにいきました

 

 

以前、仕立屋業界にも専門誌があると書きましたが、その専門誌によると2017年のトレンドとしてカジュアルではタータンチェックが台頭するようです

 

事実、英国高級服地マーチャントであるホーランド&シェリー(Holland&Sherry)の今年の生地見本には、今までにないようなタータンの色味や柄が満載です

 

 

H&S タータン

 

 

 また、ホーランド&シェリー同様英国の名門マーチャンドであるハリソンズ(Harrisons of Edinburgh)のタータンチェック柄が紋章院(紋章や系譜を管理・統括する場所)に登録されたという話も聞いています

 

 

そこで、今回はタータンチェック(タータン・プレード)についてまとめて書いてみたいと思います

 

 

「伝統柄」にはたいてい故事来歴があり、その最たる典型の一つにスコットランドの民族衣装でお馴染みのタータン・プレードという派手な格子柄があります

 

タータン・プレードのタータンとは、最初は格子柄の名称ではなく、その格子柄を特徴とした一種の毛織物を指す語として登場しました

 

このタータン織物の起源は13世紀頃というのが定説となっていますが、一説には古代ローマ時代初期にそれを想わせる色遣いの格子柄織物が見られたとも伝えられています(もっとも、衣装としてではなく肩掛け用としてですが…)

 

 

語源は中世フランス語で「麻または綿と毛を混ぜた織物」を意味するティユテーヌ(Tiretaine)ないしはスペイン語で「薄絹」を意味するティリターナー(Tiritana)からの派生語とされています

それに加え、「交差」という意味のゲール古語から来たとの説もあり判然としないのですが…

 

明らかなのはそれがスコットランド高地の氏族の衣装に端を発したものであるということと、「タータン」という言葉が1550年にはすでに使われていたということです

 

 

実は、中世から18世紀頃に至るまでのタータン織物は今日のものほど洗練されておらず、むしろツィードのような素朴な味わいをもった織物だったそうです

 

というのもホームスパン同様各家庭で織られたものなので、『世界衣装百科事典』によると、縦糸と横糸との比率は必ずしも一定したものでなく、格子柄の現れ方も不規則ないし不均衡な形のものが少なくなかったと書かれています

また、草木染めが中心であったため、その色合いも現代のそれと比べ全般にソフトで微妙な調子のものが多かったみたいです

 

 

そもそものタータン織物は、スコットランド高地の男たちの生活体験から生じたものであるらしく、その色彩や図柄は氏族ごとに異なっていました

 

さらに、各氏族のなかでも、それぞれの身分に応じて使える色彩の数は厳しく定められており、それは『民族衣装』の著作オーギュスト・ラシネによれば…

農民や兵士は1色、将校は2色、氏族のトップは3色、貴族は身分によって4色ないし5色、優れた哲人は6色、そして王族は7色

というようにわけられていました

 

 

このようなスコットランドの伝統柄であるタータンがイギリス本土(イングランド)へ導入されるようになったのは、18世紀に入り1745年のスコットランド蜂起以後です

 

それらはまず英国陸軍の連隊服に採用され、やがて19世紀になるとジョージ4世をはじめとする王室や貴族階級の人々によってポピュラー化されるようになりました

 

なかでも、1822年の夏にジョージ4世がエジンバラを訪問するにあたり、鮮やかなスカーレットを地色としたタータンキルトで身を整えたのは有名な出来事です(じつはこの思いつきは彼自身におるものではなく、スコットランドのサー・ウォルター・スコットの提案だったようですが…)

 

画像-ウィキペディアより

画像-ウィキペディアより

 

 

ジョージ4世がタータンを着用して以後は、それまでタータンを着なかった領主階級までもが競って身につけるようになり、19世紀の半ばにはイギリス全土で着用され、時の国王夫妻であったヴィクトリア女王とアルバート大公もタータンを愛用したことでさらにこのブームに拍車をかけました

 

 

以後、タータン織物はイギリス国内のみならず、ヨーロッパそしてアメリカへと輸出されるようになり、それに準じてその柄自身にもバリエーションが見られるようになりました

 

プリンス・アルバート自らがデザインしたと言われている8種類の「ロイヤル・スチュアート」をはじめ、「キャンベル」、「マクドナルド」、「カメロン」、「ゴードン」、「スタフォーソン」、「マックグレガール」など現在スコットランド紋章院(王立ライアン卿登録)が把握している氏族のタータンのみに限っても、ゆうに140種類以上を数えます(ちなみに、紋章院がタータンの登録を受け付けしだしたのは、第二次大戦が終わってからのことです)

 

しかし、そうは言っても、すべてが登録されているわけでなく、例えば世界的に有名な青地に緑と黒のタータンである「ブラックウォッチ」は、イングランド政府系の軍隊の柄だった為、スコットランド人に対する民族的配慮から今も未登録のようです

 

 

タータンは他に用途別にわけられているので、最後に載せておきます

 

ドレス・タータン

正装用 … 地色を白にしたものが多く、例えば「ドレス・スチュアート」などが典型です

 

モーニング・タータン

午前用 … 昼間の礼装に用いるタータンです

 

チーフ・タータン

族長用 … 例えば「キャンベル・オブ・カウダー」などが典型です

 

ハンティング・タータン

狩猟用 … 例えば「マクファーソン・ハンティング」などが典型です

 

ロイヤル・タータン

王室専用 … 例えばヴィクトリア女王が考案された「バルモラル」などがあります

 

レジメンタル・タータン

連隊用 … 例えば「ブラックウォッチ」があります

 

クラージー・タータン

聖職者用のタータン

 

ディストリクト・タータン

郷土用 … 例えば「ジャコバイド」や「カレドニアン」などがあります

 

 

次回は、ディストリクト・タータン(郷土用タータン)についてもう少し詳しく書けたらよいな…と思っています

 

 

浜松市のテーラー新屋は、今年も腕を磨いて皆さまのご来店をお待ちしています

 

 

 


ツィードの歴史

静岡県のテーラー新屋のダイスケです

 

めっきりと寒くなりましたね

やはり寒くなるとファッションは発達するもので、街中を見回しても暖かい気候の時と比べお洒落だなと思う人を多く見かけます

 

 

前々回に「ツィードの種類」について書いてみたので、今回はそもそもツィードとは??というところも踏まえながら書いてみたいと思います

 

 

果実や野菜に旬があるように服地にもそう呼ばれるのにふさわしいものがあります

たとえば、春にはギャバジンやファインウールなどがあり、夏にはリネンやシアサッカーなどがあります

秋には同じくコーデュロイやフランネルがあり、冬にはカシミアやローデンクロスなどがあります

 

これらのような「季節の素材」の中にツィードがあり、毎年秋になると決まったように顔を出します

少なくとも1930年代から以後今日に至るまでツィードが姿を見せなかった秋はないのではないでしょうか?

 

ツィードはそれほど秋という季節に似つかわしい「季節の素材」としてお馴染みになっています

 

なぜそこまでツィードという素材は人気があるのか?

私個人的には、おそらくツィードという素材が持っている一種の「デニム感覚」とでもいうべき特性が、この素材を魅力あるものにしている最大の要因ではないかと思います

丈夫で長持ちする耐久性、バラエティー豊富な多様性、それに着こなし自在な多用途性などはデニムにもツィードにも共通して当てはまります

また、ツィードもデニムも着込めば着込むほど、洗えば洗うほど味わいが深くなり、また古くなればなったで、それ相応の趣が認められます

 

 

前置きが長くなりましたが

さて、ツィードとはスコットランドおよびアイルランドをその主要産地とする、厚手の紡毛織物全般を指しています

これには本場のいわゆる純正ホームスパンのみならず、機械織によるツィード仕上げの紡毛地や合繊混紡の紡毛地まで含まれています

しかし元来はスコットランドの農家でスコッチ種羊毛を原料染めにして、それを手紡きにした太い糸を用いて手織り機で織り上げた2*2の綾織りのシングル幅ホームスパンのみを指しこれが狭義のツィード、つまり「スコッチツィード」でした

 

スコッチツィード

純正ホームスパン(スコッチツィード)

 

 

そもそもツィードの登場は18世紀の後半からであるらしく、その語源は綾織物を意味するツイル(Twill)の方言(スコットランド語)のツィール(Tweel)の誤読に由来すると言われています

 

英国のテーラー専門誌「テーラー&カッター」によれば、ことの起こりは1825年、産地「ガラシールズ」からの送り状に記されていた説明書きの読み違いに端を発したそうです

ロンドンのある羅紗屋さんがその産地を流れる川の名前(Tweed River)とそれ(Tweel)とを混同したようです

誤訳がときに名訳を生むように、ツイードは「ツィール」の通称=正式名称として公認されるようになり、そのまま今日に至っています

 

 

ツィードは最初、スコットランドの労働者の作業服ないし普段着用の素材として登場し、起源は18世紀の末というのがほぼ定説となっています

 

しかし、一説にはそれに相当する布地が徐々にではあるが18世紀の半ばにはすでに作られていたとも伝えられています

無論、当時はツィードの呼称はまだないわけで、平織の物は「ラシット」綾織りの物は「ツィール」と呼ばれており、いずれもツィードと同様、伸縮性に富みざっくりとした手触りの自家製紡毛織物だったそうです

 

 

この素朴かつ実用的なホームスパンが紳士服に採用されるようになったのは、後の1930年代に至ってのことです

 

最初はカントリージェントルマン達の銃猟用で、そのなかでもグラウス・シューティング(ライチョウ撃ち)用のジャケットに主として使われていたようです

ついで、1850年代から60年代にかけては、アングリング(魚釣り)用や略式のクリケット用のカントリースーツ、あるいは「ツィード・サイド」と称するラウンジ・ジャケット(スーツの前身)などにも徐々に用いられるようになりました

 

そのなかでも、ノーフォークジャケットの原型である、ノーフォークブラウスが紹介された1866年以降、ツィードは飛躍的に使用されていきます

たとえば、ノーフォークジャケット、ニッカボッカーズ、サイクリングジャケットやドライビングジャケット…、カントリー用のラウンジスーツへも採用されていきました

 

 

こうした情勢に拍車をかけるようにして、まもなくお馴染みハリスツィード(1875年)、チェヴィオットツィード(1880年)、ドニゴールツィード(1890年)などのバリエーションが次々にお目見えし、今日の私たちがイメージするところの「ツィード」が勢ぞろいするようになりました

 

 

そして、ツィードがカントリーな服地の代表格として、すなわち“シック”な布地の最高峰まで昇格するに至ったのは、おそらくココ・シャネルによって発表された、俗にいう「シャネル・ツィード(1930年)」の出現が大きかったのだと思います

シャネルスーツについては以前のブログをどうぞ

 

 

以来、ツィード仕立ての服が“シック”の同義語または代名詞とみなされるようになりました

 

 

ツィードには様々な色調、味わいが認められ一種の言い難い独特の趣が見いだされます

アイルランド北部の美しい田園風景をそのまま織り上げた色彩豊かなドニゴールツィード、スコットランド北西の島民の質素な生活習慣を伝えるケンプ入りのハリスツィード、杢糸づかいの霜降りや杉綾が一段と趣を添えている南部スコットランド産のチェヴィオットツィード…ツィードを着るということは、とりもなおさずこうしたそれぞれの布地の持ち味、趣を着るということにほかなりません

↑最後は、グランドジャンプ連載中のスーツの漫画「王様の仕立て屋」っぽく締めてみました

 

 

浜松市のテーラー新屋は「季節の素材」も大切にして服を仕立てています

 

 

 


PAGE TOP